浮かんで来るふたつの光景 「よし、やるか！」 自分に気合を入れるかのように、そう言って立ち上がった小野伸二選手は、クラブハウスのドアに向かった。 2001年7月のある日だった。 この月の9日、オランダ・フェイエノールトへ移籍することが発表されてから、大原サッカー場を訪れ、小野選手にサインなどを求めるファン・サポーターの姿が増えてきた。この日も、練習後に大原の出入り口で小野選手の姿を待つファンは200人近くを数えたと思う。 移籍が決まってから、メディアの取材も殺到し、ファンの求めに応じられない日もあった。この日は比較的時間に余裕があったのか。また、この日を外したら、もうきちんとファンに向き合う時間が取れないことが小野選手にもわかっていたのだろう。 海外のサッカー選手や野球選手が、練習場から帰るときなど、ファンにサインをする様子をテレビなどでよく見るが、多くは気軽に応じているようだ。だが、求める人全員にはサインをするわけではなく、幸運な数人が差し出すグッズにペンを走らせると、その場を離れていくことが多い。 求められたらファンサービスをするのは当然だ。だけど時間がないから全員には応じられない。それは仕方ないだろ？ そういうスタンスなのだと思うし、それも正解だろう。 だがレッズではファンサービスの際、サインする...

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